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チョコがないならお前を頂戴します

がちゃり。

鬱陶しいインターホンの音にドアを開けると、そこには禍々しい刺青をいれた可愛い殺人鬼が立っていた。

「なに…?おかえり」
「なに、って…ただいま」

今まで寝ていたからよく頭が理解出来ていないみたい。ぼーっとした頭でよく考えてみる。あ…、そっか。人識が、帰って来たんだ。

「今回の放浪はまた随分と長かったね」
「んー?そうだな…また色々と巻き込まれてよ」
「ふーん…」

私は適当に相槌を打つ。本当は何かつっこんで訊きたいところだけど、人識は何も話してくれない。それは人識曰く、私を巻き込みたくないから、らしい。
―――らしい、けど。
それですんなりと納得出来るほど、そこまで大人にもなれず、かといって我侭を言うのも気が引けた。彼が、私のためだと断言しているのだから、信じるのが、正しい道なのだろう。

「また面倒なこと考えてんのか?」
「え?」
「眉間に皺寄ってんぞ」

額を小突かれて、寝起きの私はばたんとまた布団に倒れてしまった。

「寝てたのか?」

そう言いながらも人識はすかさず私に覆いかぶさった。さわやかな笑顔つきで。

「ただいま」

彼に似合わない優しい声で呟かれてしまったから、抵抗もせずキスをした。甘く、濃いそのキスは、何かに似ている。

「…んでさ、お前今日何の日か知ってる?」
「ごめん人識。私今日が何日かも知らない」
「俺よりまともな生活してるってのに、大丈夫か?」
「大丈夫」
「そうは思えないけどな」

そこで人識はひとつ、ため息。知らないんじゃ仕方ないかと呟くと、少し残念そうだ。

「なあに?誕生日?」
「…なあ、それは俺の誕生日を忘れてるってことか?」
「…」
「頼むから何か言ってくれ!」

そう叫ぶ人識を尻目に、カレンダーを見た。

「あ。バレンタイン?」
「…正解」

たった今まで気づかなかった私。勿論、用意してるわけもなく。…まあ知ってても、人識が帰ってくるか分からないから用意しなかっただろうけど。

「ごめん。ない」
「…だろうな」
「あ、だからって人識のこと愛してないわけじゃないよ。大好きだよ、愛してるよ」
「かなりの棒読みだが多めに見よう。もう一回言ってくれ」
「しつこい男は嫌いよ」
「一回で十分です」

そこで人識は悪戯っ子みたいに微笑むと、再度私に覆いかぶさる。今度は、しっかりとした体制で。

「お前でいいよ」

そっと聞こえたそれは、チョコレートよりもずっと甘い。

 

 

戯言/人識夢
お題配布元:メガロポリスさま

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